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ACTP23 浮床展 荒木信雄インタビュー 2024.4.13

荒木さんは建築とともに、プロダクトのデザインを手掛けておいでです。ARCHETYPEを省略したACTPを冠したシリーズとなり、今回の「浮床」は23番目に当たると伺っています。

このギャラリーで棚と椅子に使っている木の箱は最初に製作したプロダクトのACTP 01です。ほかにステンレスの傘立てや、ハンガーラック、屏風など、いろいろありますが、ACTPのほとんどはぼくが建築をつくっていくなかで、必要に駆られて、その都度デザインしてきたもので、それは「浮床」も同じです。

「浮床」が必要になり、デザインしたきっかけからお聞かせください。

きっかけは2016年4月14日から16日に起きた熊本地震です。ぼくは熊本出身なので、なにか手伝えることがあったらと思って現地に通い始めました。そのなかで、当時50歳になる頃でもあり、熊本に貢献する気持ちが芽生え、事務所を現地に設けることにしました。建物は工事現場事務所によく使われているプレファブ2階建です。そこで寝泊まりするのに、床に布団を敷いて寝ることもできますが、それより床をちょっと上に浮かせて、ベッドのようなものをつくったほうが快適な感じになるかなと思いました。ベッド的なるものが必要になったことから考えた結果が「浮床」です。

ACTP23 浮床展 荒木信雄インタビュー写真

木材を組んで、その上に畳を載せるという発想はどこから?

「浮床」は大工さんが木造の在来工法でつくる床組を、ぱつっとカステラをカットするように、切り取っただけの構造です。だから床組の断面がそのまま「浮床」の断面として見えています。

在来工法の床組というのは基礎の上に土台をまわして、土台に大引(おおびき、おびき)を架け渡し、その上に根太(ねだ)を30㎝くらいの間隔で直交方向に並べていきます。そこに荒板(あらいた/ばし板、捨板)を敷き、畳を敷けば和室ができます。部材を交互に乗せていくだけなので、分解も組立も簡単にできるんです。昔から日本建築が移築される話はよく聞かれると思いますが、日本建築そのものが分解、組立がしやすい構造だから、移築しやすいんですね。「浮床」はその一部を切り取ったものですから、簡単に組立、分解、移動し、運ぶことができます。

ACTP23 浮床展 荒木信雄インタビュー写真

そのような特徴を持たせたことには、どのような背景があるのでしょうか?

自分に必要なプロダクトを自分でつくるとなったときに、ごく自然なことですが、ぼくが建築をつくるうえでテーマとしてきた「有期限」と「循環」という考え方がそこに反映しています。期限を問わずに循環させていきながら、仮設的に使うことができるデザインと、つくり方をしています。仮設的な建築に同化するデザインと言うこともできます。

ACTP23 浮床展 荒木信雄インタビュー写真

「有期限」と「循環」について、もう少し解説をお願いします。

ものごとには時間が関わっています。人間にも、モノにもすべてに寿命がありますね。永久に存在していることはなく、建築もプロダクトも、時間を意識してデザインするという意味で「有期限」という言葉を使っています。一例を挙げると、伊勢の「神宮」があります。「神宮」は式年遷宮というシステムによって更新を続けています。

木造の物理的な寿命は、木材の寿命にかかっています。伊勢の「神宮」が20年に一度行ってきた式年遷宮も、木材の寿命に由来しているように見えますが、社殿を構成しているヒノキは20年では朽ちませんよね。しかし、大きな屋根を葺いている檜皮(ひわだ)は20年ほどで傷んで使えなくなります。屋根の寿命と木材の寿命は分けて考え、分解できるように設計されていて、20年で更新したとき、まだ使える木材のほうは再利用して全国の神社の社殿などを改修する材料になったりしている。リサイクルもしくはリユースです。それをぼくは「循環」と見立てています。

「浮床」で言うと、畳の寿命、根太と大引の寿命、足元の鋼材の寿命はそれぞれにちがいます。これらをパーツとして分けられるデザインにしているところが重要です。畳が傷んだら畳だけ替えればいい、根太が傷んだら根太だけ替えればいい。時間と使い方を意識し、「神宮」と同じように循環させる考え方でつくっているんです。

同時に、最初に言ったように大工さんが誰でもつくれるところも大切です。「神宮」はたとえば100年の間を考えると、100年現役の大工さんはいませんから、20年5世代くらいで技術を継承しながら1300年つくり続けてきました。技術とともに、さまざまな要素を含めてシステム化がなされているからこそ「神宮」は期限を越え、循環をさせながら永続しています。同様に、ぼくは建築やプロダクトをつくるうえでシステム化を常に意識しています。「浮床」はどんな地域の大工さんの技術でもつくることができる点で、システム化を含んだデザインになっています。

ちょっとぐらいラフにつくっても組立、分解するうえで問題はありません。熊本事務所の「浮床」第1号は設計図を描いて、あとは地元の大工さんにまかせてつくり、ぼくが使い続けています。

ACTP23 浮床展 荒木信雄インタビュー写真

大きさや高さの目安はどう考えられたのでしょう?

今回の「浮床」はぼくが寝られる最小限の寸法でつくったものです。布団を敷いて、枕元にちょっと物を置く余裕を持たせ、2,250×1,500として、そこに一般的な畳の寸法より小さい幅750×長さ1,500の畳をつくって三畳敷にしました。高さは、たまたまぼくが使いやすいと思った高さで、溝形鋼の上に床組を置いて300にしています。寸法は部材も畳も、必要に応じて自由に決められます。足元の溝形鋼のところだけフレーム構造にするとか、デザインを変えて、もうちょっと高く浮かせてもいい。

もっとも、畳の大きさには限界があります。畳の寸法は地域によってちがうものの、だいたい幅900内外、長さ1,800内外です。その理由を建築関係の人は知っていると思いますが、畳表は植物のイグサを緯(よこ)糸にして織ったもので、イグサの育つ丈は1m10~20cmくらいなので、それによって畳の幅は決まってきたんですね。いわば自然がつくった寸法なわけです。

ACTP23 浮床展 荒木信雄インタビュー写真

熊本事務所ではどのような使い方をされているのですか? 今後の展開についてもお聞かせください。

夜寝るだけではなく、昼寝をするにもいいし、座ってお茶を飲みながらスタッフと向き合って話したり、打ち合わせたりしていますが、使い勝手のいいように使ってもらえればいいと思います。畳を使ったのはぼくの好みですから、畳に限らず、板敷でも、パネルなどのほかの材料でも使えるように想定しています。用途もベッドに限る必要はありません。用途を限定しないデザインがぼくのプロダクトの特徴です。

畳を使うことで住まい方のひとつの提案になるかなという見立てもありました。例えば、従来のマンションはリビングの一角を建具で仕切って畳敷きの和室をつくってしまう状況がありましたが、それよりも広いリビングをつくって、ぽんと「浮床」を置いてもいいかもしれません。必要なくなれば分解してどこへでも持っていけます。仮設的なつくりを意識しておいたほうが融通の利く住まい方ができるんじゃないでしょうか。

建築に同化するデザインなので、ここ4、5年の間に設計した建築で「浮床」が採用されたケースが何件かあります。個人住宅にオフィス、ギャラリー空間など、それぞれ思い思いに使われているし、アパレルメーカーの店舗に置かれ、座って休憩したり、洋服を広げてみたりといった使われ方もされています。今後は空間の大きさによっては四畳半や六畳といったバージョンをつくってみる可能性があると思います。近々、海外で使われる機会もあり、どんな反応が返ってくるか、期待しています。

荒木信雄 / Nobuo Araki

1967年熊本生まれ。1990年西日本工業大学建築学科を卒業。その後、豊川建築研究所を経て1997年 The Archetype 設立。現在、西日本工業大学客員教授。
建築、インテリア、プロダクトなど多岐にわたる設計を行う。クライアントには国内外で活躍するクリエーター、アーティストのほか、個人から企業までと幅広い繋がりをもつ。
主な仕事に、廃校となった小学校をリノベーションした「吉本興業株式会社 東京本部」や、現代美術家 村上隆氏のギャラリーとオフィスである「Kaikai Kiki 元麻布」、原宿の地域計画を意識した美術館「The Mass / StandBy」などを手がける他、近年ではソニービル建て替えにおいて「Ginza Sony Park Project」のメンバーとして建築を担当。

清水潤 / Jun Shimizu

日本古書通信社などを経て、月刊「建築知識」(現エクスナレッジ刊)編集部に在籍。1991年よりフリーランス。隔月刊「CONFORT」(建築資料研究社刊)をはじめとして、住宅、歴史的建造物、材料、職人、左官、建設現場など、建築土木関連の編集と取材記事の執筆を行う。自薦の編集書籍:中山章著『図説日本の住まい』(建築資料研究社刊)

建築家・荒木信雄さんと東屋のプロダクトについて、「建築金物の現在」、「屏風」(ともにCONFORT掲載)がある。

日付=2024・4・13
場所=パレス青山106
撮影=立花文穂

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