◎かつて、世の珈琲愛好者を唸らせた店が、東京・表参道にありました。大坊珈琲店。1975年の開店以来、唯一無二の一杯を求め、この店を訪れた人は数知れず。2013年、惜しまれつつ閉店した後も、店で味わった珈琲の深いコクと澄んだ後味を忘れられずにいる人は多いはずです。
◎今は記憶の中に眠る味。それを再現するための道具を作りました。コーヒーポットと、ドリップ用フィルター。いずれも、店主・大坊勝次氏が店で使用していた道具を再現したものです。注ぎ口を叩き、ドリップに最適な細さの湯を落とせるよう絞ったステンレスのポット。コンソメスープを漉すために使われていた片側起毛の厚手ネル地のフィルターは、やはり試行錯誤の末に辿り着いた理想的な材質です。
◎もともと、ポットは市販の普及品。フィルターに通した針金は店主自身が曲げて作り、金ヤスリの交換用の柄として市販されていたものに取り付けていたといいます。身の回りにあるごく普通のものを自身にとって最適な道具に磨き上げる見立てにも、珈琲に情熱を傾け、人生を注ぎ込んできた店主の姿勢が滲みます。
◎〈ドリップしている間、他のいっさいのことができなくなる。(中略)すると、その時、遅い時間の流れの中で我々のお茶の時間を大切にする心が、静かに満ちてくることに気がつくのです〉※
◎慌ただしい日常のひとときを、深く濃密な一滴に結実させるための必要十分な道具が、ここにあります。
※『コーヒーのつくり方』 大坊勝次著 東雲書林
*寸法、容量、重量の数値は個体差があります。
*容量は、満水時の数値です。